特集 あなたと私の人生会議を考える 第11回

 

【特別養護老人ホームで看取りをする時代になって 山本 進】 より抜粋

幸せは共同決定から

二人の方の看取り介護を振り返りましたが、二人とも自分の意思を言葉にできる方々でした。私たちは、この二人の言葉と生き方から施設での看取りに勇気を振り絞ることができました。
しかし、現実には看取り対象者の大半はすでに意思表示ができなくなってからの家族との同意でした。そこで、家族の方々は本当に施設での看取りでよかったと思っているのか、私たちの対応はこれでよかったのかどうか、聞いてみたいと思っていました。

ちょうどその頃、平成30年全国老施協総研研究事業に採択された岩手県立大学倉原教授の「過去の看取り事例の再分析調査」に全面協力することで、家族の意見・感想を聞かせてもらうことができました。平成18年度に看取り加算制度が創設されて以降の60事例のうち、連絡が取れた43事例に大学から調査票を郵送して集約し、さらに11事例については、遺族に直接インタビューがなされました。どんな結果がでるのか不安もかなりありましたが、今後の活動の道しるべになることを信じて調査を見守りました。


その結果、看取り介護への満足度では十分満足が82%、まあまあ満足が15%、やや不満が3%でした。やや不満とされた方は、医師や施設側の説明が理解できなかったと回答しており、大きな反省材料をもらいました。今後は、しっかりとしたアセスメントを実践し、家族・医療者・介護者の協力体制を築いて幸せな最後への「共同決定」を育んでいく看取り介護を充実させたいと仲間たちと話しています。

…完…


今回は林先生に人生会議についてお話ししていただきます

日本は世界有数の長寿国です。2019年の平均寿命は、男81.41歳/女87.45歳でした。ピンピンコロリ、最期の時まで健康であるのが理想的ですが、実際そうはいきません。ピンピンしていられる、すなわち日常生活に制限のない健康寿命は、国勢調査の翌年に発表されるのですが、2016年で男72.14歳/女74.79歳でした。裏を返せば、男性で約9年、女性で約12年を超える、何らかの日常生活が制限された余生があるのが現実です。

老化は治すことが出来ませんから、誰もが老い衰え、死を迎えることは自然の摂理です。老い衰えた時に、どのように過ごしたいか、どんなケアや医療を受けたいかは、自分の意志で決定するのが一番ですが、実際は、命の危険が迫った状態になると、約70%の方が自分で意思決定できなくなると言われています。認知症になったり、脳卒中や心筋梗塞で倒れた時はもちろん、意識不明とまではいかなくても、高熱や呼吸困難の状態で、自分のからだについて医師から説明を受け、決断を迫られても正しい判断は出来ないのが普通です。


厚生労働省や医師会などは、もしもの時のために「人生会議~アドバンス・ケア・プランニング~」を行っておくことを呼びかけています。

人生会議とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの 意思決定を支援するプロセスのことです。患者さんの人生観や価値観、希望に沿った、 将来の医療及びケアを具体化することを 目標にしています。(日本医師会)


しゃくなげ荘に入所している方の平均年齢は86歳です。基本は本人、家族、医療ケアスタッフで、今後どのように生活し、どのようなケアや医療を受けたいかを、入所の時から繰り返し人生会議で話し合うようにしています。入所基準が要介護3以上なので、既に食べ物を飲み込む機能が衰えてきている方が多く、誤嚥性肺炎を起こしやすい状態です。自分で食べられなくなった時、人工栄養を行うかどうかが、人生会議の重要な議題です。ところが、話し合いの時には、本人が自分の意向を人に伝えることができない状態になっていることが少なくありません。そうした場合に、御家族はもちろん、医療ケアスタッフはどうするのが本人にとって最善なのか、大変悩みます。
人生会議は早すぎるということはありません。元気な時から、人生の節目に御家族で繰り返し話合っておくことをお勧めします。
お盆や正月に家族が集まった時などは、人生会議の良い機会です。かかりつけ医がいる方は、受診の時に一度主治医や看護師に相談してみましょう。地域のケアマネージャーや保健師に自分の希望を伝えておくのもいいでしょう。
自分一人で考えて、希望を書いておく方がおられますが、いざという時に、自分の大切な思いが医療介護スタッフに伝わらなければ意味がありません。自分の思いを家族や医療スタッフと共有しておくことが重要なのです。