全国老人福祉施設協議会・公募研究助成事業の実施

「過去の看取り事例の再分析調査」を公立大学法人岩手県立大学総合政策学部の倉原宗孝教授と共に実施しました。
今回、報告書がまとまりましたのでご紹介させて頂きました。

この内容はPDFでも閲覧いただけます。
過去の看取り事例の再分析調査(27,454KB)

1.遺族対象アンケート調査

調査の概要

本調査における連携施設、社会福祉法人鹿追恵愛会特別養護老人ホームしゃくなげ荘では、これまで60件(2016年度介護保険に看取り介護加算制度による加算対象案件+それ以前の施設内看取り案件を合わせた数)を数える施設内看取りの経験を有しているが、本年度調査においては、この中から遺族と連絡がつき、かつ遺族への協力依頼が可能と目される43件の遺族を対象に下記のような内容のアンケート調査を実施した。

(1)調査内容

アンケート調査票の主な内容は次の3点である。

  • しゃくなげ荘における看取り介護サービスに対する評価や意見
  • 自分自身の最期の迎え方に関する希望や考え方
  • 回答者と故人との関係

(2)調査対象と調査方式

平成30年11月までに看取り介護サービスを実施した60件のうち、遺族との連絡が可能で協力依頼も可能と思われる43件分に関して、その身元引き受け人に宛てて郵送配布・依頼及び郵送回収方式でアンケート調査を実施した。
個人情報保護の観点から、郵送発送はしゃくなげ荘にお願いし、回答票のみ岩手県立大学宛てに郵送してもらう方式とした。

(3)実施期間と回収率

平成30年12月13日に発送し、約1ヶ月間で37票の回答票が回収できた。
回収率は約86.0%であり、遺族の関心の高さをうかがい知ることができる(発送後、回答の催促等は一切行っていない)。

(4)アンケート調査票

次頁より配布したアンケート票を掲載する。

アンケートの回答結果

(1)故人と回答者の関係について(質問1、質問2−1、質問2−2)

今回のアンケートの回答者で多いのは、「故人の子ども」で、「同居歴が20年以上、30年以上」で、「現在も同居または近居(別居ではあるが町内または周辺市町村に住む)」という方々であると思われる。
ただ、兄弟姉妹やその他の血縁者または姻族という回答も合わせて25%ある。

(2)看取り介護同意の際の説明のわかりやすさについて(質問3−1、3−2)

看取り介護の同意書を交わす際の事前説明が理解できたかどうかについての質問であるが、医師からの説明、施設からの説明、両方とも概ね理解されていると考えて良い。
「ほとんど理解できなかった」と答えた方が1名いたが、これは他の事情により生じた不満を、この回答にもぶつけたものではないかと推察される。

(3)終末に関する故人の意思の確認について(質問4)

この設問に関しては、アンケート票の印刷ミスから回答選択肢の表記内容が誤まっていた。
しかし、多くの回答者が選択肢だけでなく自由記述で回答の意味を説明してくれていたことから、概ね次のような傾向であると判明した。

  1. 口頭または書面にて故人の意思を知っていた者・・・約4割弱
  2. 故人の意思を知らなかったか、或いは理解できなかった者・・・約6割弱

また、知らなかった、理解できなかった理由を次に列記するが、「認知症」等をあげる声が少なくなかった。

  • 耳が遠く話ができなかった。
  • 元気であったのに急に具合が悪くなり、その話ができなかった。
  • 認知症が進んでいたので意思の表明はなかった。
  • 認知症になり理解が困難。
  • 口がきけないためわからなかった。
  • 個人の考え方は聞いたことがない。
  • 認知症のため。
  • 故人は単身だったので、介護する私どもの考えに従っていた。
  • 本人の口から直接聞いたことがなかった。
  • そのような話をしたことがなかった。
  • 特に何も聞いていなかった。
  • 私たちができることは何でもしてあげようと思った。
  • 話をしたことも、書面で見たこともない。
  • 口頭で聞かされ、また書面にも残していました。
  • 認知症の進行が早く、また私の仕事もあり、直接本人と話し合う機会がありませんでした。

(4)しゃくなげ荘の看取り介護サービスに対する満足度

しゃくなげ荘の看取り介護サービスに対する遺族の評価は極めて高いといえる。
「十分満足」と「まあまあ満足」を合わせると9割を超える。また「十分満足」だけでも76%にも達する。
その評価の理由は、自由記述回答の内容(次頁に列記する)からわかるが、しゃくなげ荘がいかに入所者や家族に対して誠実で考え方が伝わりやすい介護サービスを提供しているかが手に取るようにわかる。その様子は後のヒヤリングでも詳しく伺えた。
なお、次頁の自由意見では、研究者側がキーワードやポイントであると判断した部分に太斜字・下線処理を施した。

しゃくなげ荘の看取り介護サービスに関しては、遺族からの評価が非常に高いといえるが、そのポイントを整理すると次のとおりである。

  • 親切、詳細、丁寧な説明
  • 日々の様子や変化があった時などに関するこまめな報告、連絡
  • 医療との密な連携
  • できるかぎり本人の状態や希望、家族の意向に寄り添う“個であること”を尊重した対応
  • 制約、制限等の少なさ(家族からみて自由度が高い)
  • 本人への徹底した寄り添い型介護と、そこから生まれるプラスアルファ的対応
    • アロママッサージや野球の話題の話し相手
  • コミュニケーション・関係を円滑にする基本動作の徹底
    • 笑顔(嫌な顔ひとつしない)
    • 挨拶

ちなみに「やや不満」と答えた回答者が2名いたことも報告しておく。

1名は、「父が亡くなった時、老人ホームからの電話で『息をしていないんです』と言われて。もちょっと他に言い方がなかったのかなと思いました。」とのことであった。あと1名は内容不明であった。

(5)自分自身の最期に関する考え方(質問6−1〜6−4)

家族・親族(多くの場合は親)を看取った遺族(多くの場合は子ども)に対して、やがて将来訪れるであろう自分自身の最期に関する考え方を質問した。

【質問6−1:自分自身の最期や看取りについて考えたことがあるか】

「よく考える」と「たまに考える」という回答で8割を超える。

【質問6−2:故人の看取りで影響を受けたか】

これも、「大いに影響を受けた」と「多少影響を受けた」の回答が9割を超える。
「親の看取りをすることで子が死を学ぶ、考える」ケースが多いのではないか。
昨今、日本の子どもや若者が「人の死から遠ざけられている」ことの弊害が論じられるが、親はもちろんのこと、祖父母の死から死に接することによって、自然と「死の学びのリレー」が形成されていくのではないだろうか。
ちなみに、次章2の遺族ヒアリング調査で調査No.1で報告している家族の場合、男性の人生を描いた紙芝居上演を、もう死が間近な男性を囲んで、その子や孫たちが一緒に鑑賞した。そして「我が父」、「我が祖父」の人生と死を子孫たちは感じ、学ぶことになったのではないかと推察される(調査No.1の娘のヒアリングでそのことが言及されている)。

【質問6−3:あなたはどこで最期を迎えたいか】

しゃくなげ荘への評価が非常に高いことから「高齢者施設」という回答がもっと高くなるかと予想していたが、43%にとどまり、ついで「自宅」が32%となった。
「自宅」を選んだ12名のうち、しゃくなげ荘に対する評価は、「十分満足」が8名、「まあ満足」が2名、「やや不満」が2名である。しゃくなげ荘への評価は高くても、理想の最後の場所は「自宅」ということであろう。
また、「その他」の意見は4名いたが、「介護してくれる子供達の都合に合った場所でいい。」や「子供達に迷惑かけないで最期を迎えられたらとは思っていますが、どの方法がいいのか考えさせられます。」というように、子どもへの配慮・遠慮から、希望の死に場所を言えない(言わない)タイプの方も2名いた。この「子どもや家族に負担・迷惑をかけたくない」という考え方は、質問7(自由記述式)の回答においても、回答をした29名のうち9名もが言及していることから、死に場所を決める上で主要な動機・理由のひとつになるものといえよう。

【質問6−4:自分の終末期の栄養補給方法について】

この質問には、9割以上が「最後まで自分の口から食べたい」と答えた。
ちなみに、質問7の自由回答でも、29名の回答者のうち「最後まで経口栄養で」と直接的言及が3名、また「延命措置は不要」という間接的言及が4名いる。

また、「口から食べられなくなった場合は何らかの栄養補給を希望」すると答えた方は2名であったが、2名とも「胃ろう」を選択している(質問6−5での回答)。

(6)故人の終末期の栄養補給方法について(質問6−6)

故人の終末期の栄養補給方法について質問したが、「最後まで口から」という回答が7割近くあった。枯れるように自然に亡くなるための支援を心がけているしゃくなげ荘の看取り介護サービスの状況をうかがい知ることができる。
しかし、「胃ろう」や「鼻腔栄養」も合わせて3割近く存在することから、頑なに「経口で」を押し通すのではなく、諸般の事情を鑑みながら柔軟に対応していることの現れではないかと推察される。

(7)自由記述式回答(質問7)

人生の最期の迎え方や看取りについて、自由に考え方や意見を質問した。
結果、37名中29名が、自身の考え方を述べてくれた。
長文回答も少なくなく、回答者の意識や関心の高さを物語っている。
回答内容は下記で紹介する。

この自由記述式回答の内容には、概ね次のような共通点があるものと考えられる。

  • 自宅で最期を迎えるのが理想だが、それは今の時代には難しいことである。
  • それに、子どもや家族にはできるだけ迷惑や負担をかけたくない。
  • できるだけ最後まで自力で生活したいが、自分で判断ができなくなったら(認知症などで)施設に入所せざるを得ないだろう。
  • なので、しゃくなげ荘のような高齢者施設で看取り介護をしてもらうのがいいだろう。
  • できればしゃくなげ荘がいい。
  • こういうことは元気なうちに子どもや家族に話しておく方がいいかもしれない。
  • 口から食べられなくなったら延命治療は要らない。
  • 施設の中ではいい人間関係の中で、安らかな最期を迎えたい。

これらの意見は、「肉体的に衰え、できなくなることが多くなっていくことを、どう受け止め、最期を迎えるまでどう対応していくか」に関する回答であると思われる。
自分の人生の終焉に向けて、「人生の締めくくりにあたって、自分という人間が生きたという表現(自己表現)をどのようにするか」ということに関しては、1名が「自身の人生の目的を達成した上で」と記述しているだけで、他の回答ではほとんど言及されていない。これは日本人の特性であるのだろうか。

2.遺族対象ヒアリング調査

2-1 ヒアリング調査の概要

1で実施した遺族対象アンケート調査を補完し、遺族として看取りに関する感想や意見、さらには本事業連携施設『特別養護老人ホームしゃくなげ荘』に対する評価等をより具体的に把握すべく、11家族の遺族(うち1件は家族ではなく後見人)を対象としたヒアリング調査を実施した。

(1)調査対象者

アンケート調査を依頼した43の遺族の中から、入居動機・経過で典型的な事例、特徴的な事例、またヒアリング調査協力をお願いしやすい条件(鹿追町内または近接町村に在住の方で、しゃくなげ荘に来ていただけるか、調査員が日中に自宅訪問しヒアリング調査ができそうな環境にある方)などからしゃくなげ荘側で選んでもらった。

(2)実施日と対象者数

  • 2018年12月15日:2件
  • 2019年 1月15日:3件
  • 2019年 1月16日:1件
  • 2019年 2月18日:3件
  • 2019年 2月19日:2件

(3)ヒアリングの内容

  • 故人との関係
  • 故人の看取りに関して感想、よかったこと、後悔すること
  • 看取りに関する自身の考え方
  • しゃくなげ荘に対する評価や意見等
  • その他

2-2 ヒアリング調査結果

次の11件のヒアリング調査結果の概要を整理して示す。
各ヒアリング調査に要した時間は30分/件〜1時間半/件とばらつきがあったが、これは対象者の性格(会話が得意か否か、おしゃべりが好きか否か)や看取りに対する意識の差によるものであったと考えられる。
調査者側から誘導して話してもらうのではなく、出来るだけ自分の発意と自分の言葉で話してもらえるように配慮した。
時間の長短はそのような理由で発生したと思われる。

2-3 ヒアリング調査から抽出できるポイントの整理

当然ではあるが、まず、1章で報告したアンケート回答結果の記述でもあげられていた意見が述べられている。

  • 自宅介護は無理が多い。限界がある。
  • 故人も無理な延命治療を望まなかった。口から食べられなくなったら終わりだと思う。
  • しゃくなげ荘は信頼感を抱かせてくれる施設であり、まるで「家にいるような空気」を感じさせてくれる。

アンケートでは出てこなかった類の発言もいくつかあった。

  • 故人を挟んで、親族間(とりわけ兄弟姉妹間)の確執が多い。入所まで誰が生活を共にしてきたか、最期の世話(入所時の世話)を誰がしたか、葬儀は誰が主導で執り行ったか、相続はどうなったか等々、揉め事の種は尽きない。
  • 兄弟姉妹・親族間の確執を防ぐ上で、有効な手立てが『グループLINE』の利用だった。日々の介護や本人の変化の様子を、一番近くで見守っている家族が、他の兄弟姉妹や親族に向けて、その都度LINEで報告するのである。これをしておくことによって後々の不満や文句が少なくなったように思う。
  • 家族にとっても『死の受容の段階』があるように思う(キューブラー・ロスの『死の受容の五段階説』は本人が自らの死について受容していくステップに関しての説であった)。自分の大事な親(または家族)を亡くすことになる家族にとって、ひとつひとつ段階があることを教えてくれ、またその都度知らせてくれることで、精神的な準備ができる。しゃくなげ荘はそういう心配りもしてくれる施設であった。
  • 病院(日本的医療の思想を色濃く持つ機関)の価値観は、『安全、安心、病状の管理、そして治療・治癒』である。しかし終末期の高齢者が治療によって治癒する可能性は極めて低い。一方、高齢者側は、できるだけ安らかに平穏に、そして自由に暮らしたいと願う。この日本国病院の思想と末期高齢者の暮らしの価値観に大きなズレがある。
  • 病院で高齢者の状態を悪化させる事例が多数発生しているようだ。とりわけ拘束(薬物による拘束も含む)によって認知症を発症させたり悪化させるという事例が少なくないようだ。
  • 現在の成年後見人には看取りの同意書にも手術の同意書にもサインできない。成年後見を必要とする人たちには、手術も看取りもしてもらう権利がないというのだろうか。また成年後見人に死後処理をする義務はない。しかし死後の対応までできないと施設としては引き受けてくれない実態もある。法制度上の課題がある。
  • 直接看取り介護を希望する意思や終末期の看取りの内容について、家族の同意だけでなく本人(故人)がその思いを言葉で明確に施設側に伝えた(このケースに該当する方は3名いた)。

さらに、看取りの質の向上に向けて、さらに一歩踏み込んだ意見も出されていた。

  • 『人生劇場紙芝居』制作中のヒアリング調査員来訪や、紙芝居公開上演日を心待ちにし、それが生きるエネルギーになっていた。

この意見は、人間には「自己表現」あるいは「自己を人に伝えたい」という欲求があり、その行為が生きるエネルギーにもつながるという大切さを教えてくれている。今回ヒアリング調査の対象者の中では、『人生劇場紙芝居』は、調査 No.1の男性とNo.7の女性の2名が体験しているが、この2名に関しては、紙芝居の制作や上演が、生きる上での張り合いにもなり、また子や孫たちに残すメッセージにもなっていたといえる。

もうひとつ大事な意見があった。

  • いい施設は、いい看取りは、「施設・職員」+「入所者」+「家族」、この三者が共同で作り上げていくものだ。

これこそ、今回の調査研究の“結論”といって過言ではない内容のものである。この三者の間に「理想とする介護のあり方」と「信頼関係」のある施設、看取りが、いまもこれからも求められているのではないだろうか。

3.施設役職員グループインタビュー調査

1で実施した遺族対象アンケート調査及び2で実施した遺族対象ヒアリング調査では、本調査研究事業の協力施設『特別養護老人ホームしゃくなげ荘』への評価の高さや、同施設に対する遺族からの信頼感を随所で感じさせる結果となった。
しかし、看取りに取組む老人ホームであれば全て素晴らしいというわけではないだろう。高評価の背景には「しゃくなげ荘ならではの工夫や努力」が存在するはずである。
遺族からのアンケート記述回答や、ヒアリング調査の内容から、その評価されるべき点のいくつかは把握できるが、それ以外にも見落としている点があるかもしれない。
そこで、しゃくなげ荘の施設長、副施設長、生活相談員に集まってもらい、しゃくなげ荘が評価される理由に関して、その心当たりを語ってもらった。

1.施設長から

  • 利用者や家族といい関係を作る上で、もうひとつ大切なことは「きちんとしたアセスメント」である。
    • アセスメントの方式は「センター方式」を採用している。この方式は記述量が多く手間がかかるため、採用する施設はあまり多くないと思われるが、家族構成、本人の思い、最後の迎え方(迎えさせ方)について聴きとるように作られている。
    • しゃくなげ荘では、新人も先輩職員とともに担当を持ち、アセスメント作成に参加している。専任職員がPCに入力し処理している施設が多い中で、あえてこういうスタイルにこだわるのは、職員に対する「看取り介護の理解」と「当事者意識の育成」を考えるゆえである。
    • アセスメントにおいては、家族構成と関係性に着目している。申し込み者・身元引き受け人(長男や同居者など)以外にキーパーソンが存在する場合があり、その関係性に気づくことが大切であると感じている。
  • 職員に心の余裕があるから、利用者や家族にもいい対応ができる。その心の余裕をもたらし得るための種々の改善策を講じることが運営責任者としての役割である。
    • 職員が忙しさに追われないよう、可能な限りの業務改善を行う。
    • ICTを活用し施設のどこからでも連絡・報告や事務作業ができる環境を整え、オムツも質の高い(価格の高い)ものを用いて不要な交換回数を減らす。
    • 事務専任職を置かず、事務職員も介護に参加する。また現場からも事務作業に参加できるようにする。よって、事務部門の人件費を抑えることができ、その分職員の待遇向上に役立てることができる。
  • 上下の関係ではなく、横の関係を強化して業務処理環境を改善する。そのため、理事長にも施設長にもデスクがあるだけで個室はない。事務所はオープンカウンターで訪れる家族や入所者・利用者からの敷居も低くなり、このことが施設と家族、利用者との関係を良好に保つ上でも役立つ。
  • これまで社会福祉法人は既得権益で守られ、また行政との関係も強かった。このことによって職員の業務環境や士気に悪影響を及ぼさないよう配慮しなければならない。それが利用者のためにも必要である。
    • コネ入職等を防ぐために、また現場職員の士気を下げないために、新規職員採用は、職員による委員会に委ねている。施設長はその結果を尊重し、口は挟まない。これによって職員たちの「我が施設意識」も高まると思う。
    • 職員採用だけにかかわらず、多くの問題では職員たちの意見を取り入れる。

2.副施設長から

  • 職員同士も、利用者や家族に対しても、「まず笑顔ありき」をモットーにしている。
  • また職員同士に先輩・後輩の上下関係は無く、お互い「ありがとう」を言うようにしている。
  • お客様や家族の方が御帰りになる際は、玄関周辺にいる職員(事務職も介護職も全員)がお見送りすることにしている。これは施設長が随分と以前から行なっていたものを職員全員に行き渡らせた“習慣”である。
  • また、入所者の日々の様子を、詳細に丁寧にわかりやすく伝えることで家族との信頼関係は確実に良化する。また、入所時だけでなく、日々の様子や変化の内容に関しても随時こまめに連絡・報告することが、家族に信頼感を感じてもらうために不可欠である。
  • これらを“自然にできるようになる”ことが大事だと考えている。

3.生活相談員から

  • ここの施設は、職員同士上下の関係では無く、水平、横のつながりで成り立っている。
  • 管理職などという概念は現場には不要ではないかと思う。
  • 事務職だけでなく介護スタッフも事務所に自由に出入りする。家族も事務所に出入りする。入所者も頻繁に事務所に出入りする。
  • 先日十勝管内の相談員部会に出席したが、他の施設は「職場の中でお互い自分以外の専門領域には首を突っ込まない」と言う不文律があるようだ。家族や入所者に対応するのも生活相談員だけらしい。対してしゃくなげ荘は、全くその逆で、施設職員全員が施設全体を背負う気持ちを持っている。

こうした施設内の様子、職員相互の様子は、研究代表者・共同研究者が調査のために当該施設を訪れるたびに実感するものでもあった。入居者・訪問者・職員間で交わされる自然な挨拶や気配り・対応はインタビューで語られた通りのものであった。こうした関係や場を醸し出していくうえでのポイントが本調査でも示されるが、それを普遍化・普及するうえでの体系的な分析も今後の興味深い課題となる。


「過去の看取り事例の再分析調査」報告書より抜粋